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milestone ブログ

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小説 「君に何が残せたのかな」-11

日が変わった。
朝起きたらかなりのめまいがしていた。
頓服を飲むと楽になるが睡魔が襲ってくる。
いや、起きていてもどこか宙に浮いた感覚があって、現実を実感できない。
ふわふわしているんだ。まるでガラス越しに世界を見ているかのような感覚になる。
頓服は飲めない。そう、今日は綾とのデートだからだ。
そういえば、綾と会うのはいつぶりだろう。
ここずっとプロジェクトが佳境だったため会っていなかった。
プロジェクトも終盤になると時間も曜日も感覚がなくなってくる。
来る日も来る日も同じ部屋で過ごす。疲れたら仮眠をとり、また仕事を再開する。
ただ、解っていること。それは納品日だ。
佳境になる前。
そうだ、2ヶ月前に水族館に行った。
葛西臨海公園だった。
途中で携帯に連絡が入り、そのまま一気に佳境を迎えたんだ。
別れ際にまた今度来ようって言ったのを覚えている。
2ヶ月ぶりのデート。
いつもは1ヶ月に1回のペースでのデート。
だからこそ綾は楽しみにしてるだろうな。
私は頭をふった。目が覚めるように栄養剤をドリンク剤で飲む。
どこかで綾と別れないといけないと思っているのに、やはり綾と逢いたいと思ってしまう。
不思議なものだ。
私は気分が晴れないのでシャワーを浴びて出かける用意をした。
お気に入りのシャツを来て、香水をつける。
なんだか病人の匂いがするんじゃないのかという恐怖がある。
いや、疲れているところを見せたくなかった。
私は綾と待ち合わせしている新宿へ向かった。


新宿。
いつも待ち合わせする場所は決まっている。
映画を見るのならばコマ劇場だ。
本当なら劇場近くがいいのかも知れない。
でも、いつも綾はドンキの近くで待ち合わせをしたがる。
どちらかが遅れそうだったら中に入って何かを見ている。
先に来たほうが遅れてくるほうにメールをする。
たいてい気が付いたらブランドものを見ていることが多い。
私はドンキについたので綾にメールをした。

「ついたよん」

だが、いつも遅れてくる綾はドンキに入らず待っていた。

「ゆっくん。おはよ」

薄い青のワンピース。白い大きなベルト。ゆったりとした格好をしているせいか、いつもより綾の表情が優しく見えた。

「ああ、おはよう」

私は一瞬その優しい綾の表情に心を奪われた。
ああ、この綾にすれ違いを考えるのか。
私は一瞬戸惑ってしまった。
綾は私の手を取って話してきた。

「ね、久しぶりだね。会うの。今度は前みたいに途中で消えないでね」

寄り添う綾はいい匂いがした。
確か綾がつけている香水は「ミラク」だった記憶がある、
いつか一緒に買いに行った記憶がある。
綾の長い髪が風になびくたびその匂いが広がる。
いつの間にかコマ劇場のところについていた。

「ねえ、映画見よう」

綾はちょうどの時間になるように待ち合わせ時間を決めていた。
毎回デートはどちらかが企画して、どちらかがその内容に従う。
前回、私は途中で帰ってしまったため、今回は綾のしたいデートになっている。
私はそれを解っていた。そして、綾が決めたことを崩されるのを嫌っているのも知っている。
だからこそ言ってみた。

「なあ、綾。違う映画見ない?」

私はドキドキしていた。ケンカになるかもしれない。
綾は楽しんでいたはずだ。この映画ははじめの映画を見たときに私も綾もはまった。
謎が多く、色んなところに伏線があるのかを話していた。
どういうラストになるんだろうね~って話していた。
だから、絶対見たいって二人で言っていた映画だ。
私は綾の顔をちゃんと見れなかった。
だが、綾は優しくこう言った。

「いいよ。ゆっくんがそう言うなら。じゃ、何見ようっか」

優しい綾の表情を見て私はびっくりした。予想と違ったからだ、
すれ違うことも、ケンカすることもなく、私たちはその時間から見られるほかの映画を探した。

「なんかこの映画なら入れそうだけれどどうする?」

綾がそう言って来た映画は私も綾も内容を知らなかった。
女子高生が携帯小説で書いたものが映画化されたものだった。
他は結構待つ感じだったから私たちはその映画を見ることにした。

映画は-
 好き同士の二人。お互い意識しているけれど付き合うに至らない甘酸っぱい関係。
 でも、ちょっとした誤解からカレ-瑞樹はカノジョ-さやが違う男性-ユウトを好きだ
 と思ってしまう。誤解が解けたとけて、瑞樹とさやは付き合うが、瑞樹は自分が病気で
もう長くないことが解る。瑞樹はその事がさやに言えずにさやとギクシャクする。
 次第に瑞樹は学校に来なくなり、瑞樹の携帯も繋がらなくなる。
 瑞樹の家に行っても瑞樹に会えないさやは次第にさやに優しく接してくるユウトに好意
を抱くようになる。
 さやが別れ話をするために手紙を瑞樹の家のポストに入れようとしたとき、瑞樹の親友
 のタクヤが瑞樹の家から荷物を持って出てくる。タクヤの後をつけたさやは病院につく。
 そこでやせ細った瑞樹と出会い、瑞樹が死ぬまで一緒にいると言い出す。
 瑞樹は嫌がっていたが、さやの気持ちがわかり二人で死を受け入れる
-という内容だった。

私は見ながら横にいる綾が気になっていた。
綾は号泣をしていた。その綾を見ながら私は複雑な気持ちになっていた。
エンドロールが流れても涙が止まらない綾を私は抱きかかえた。

「大丈夫だから」

私は綾を抱きしめながらこう言った。
そのセリフに何の説得力もないことは私自身が一番知っている。
次の上映が始まるため、私たちは映画館を出た。
徐々に落ち着いてきた綾はこう言って来た。

「ゆっくんはあんなことになったら私にちゃんと話してくれる?」

私は綾の質問になんて答えていいのか悩んでしまった。
そう、あまりにも今の私に質問をして欲しくない内容だったからだ。
私は考えてこういった。

「うん、綾にとって一番いい選択を考えるよ。
 寂しい気持ちになんてさせたくないから」

私は言いながら卑怯だと思った。今の綾、泣いている綾はこんな答えなんて求めていない。
もちろんだよ。
そう言って欲しかったに決まっている。
けれど、今の私にはそう言えなかった。
綾は涙を拭いてこう言った。

「ごめんね。泣いてばっかりで。
 私はゆっくんには笑顔でいたいもの。泣いてばかりじゃダメだよね」

泣きながら笑っている綾の顔はものすごくかわいくて、私は綾と出会えてよかったと思った。
それから綾は落ち着いてきた。

「ねえ、この後どうする?」
綾が言って来た。
私はいつもならお茶して、カラオケをして、ご飯を食べるというコースだと思っていた。
だが、頓服も薬も飲んでいない。
抑えきれない頭痛から何度か眉間にしわがよってしまう。

「ああ、そうだね。どこかでお茶でも飲もうか」

私はそう言った。
いきなり久しぶりのデートを終わらしても良かったが、私も正直もう少しだけ綾といたいと思っていた。
複雑な気持ち。
だが、綾は違っていた。

「ゆっくん、なんだか体調悪そうだよ。
 今日はもう、帰ろっか。その代り、来週時間とってよね」

綾はそう言ってきた。
確かに頭痛から意識がどこかに飛んでいきそうだ。
こんなことなら痛み止めくらいを飲んでくればよかった。
私はおさまらない頭痛に苛まれながらこう言った。

「綾、ゴメンね。まだ、疲れが抜けていないみたいだ。
 今日はこれで帰ろっか。また来週ね」

そう言って、癖になっている携帯にスケジュールを入れていく。
ああ、そういえば、不思議と自分の余命予定のスケジュールも入れていたな。
変なところで笑ってしまった。

駅まで綾と歩き、綾を見送った。
いつもと同じ。ただ、時間だけが早い。
私は綾の後姿を見ながら、後何回綾をこうやって見送れるのだろうって思った。


家について、すぐに頓服を飲んだ。
薬を良く調べると痛み止めだけでなく、症状緩和や色々なものが入っていた。
私は何を飲むのを避けると意識が集中できるのかを試すようになった。
ベットに横になる。
まだ夕方だ。眠りはそこまでひどくないだろう。
私はそう思っていたが、気がついたら翌日になっていた。


【タイトル 残り174日】

気がついたら昨日はブログをかけませんでした。
昨日は彼女とデートをしていました。
別れ話はまだいえそうにないです。
彼女の笑顔を見ていたらそんなこと言えなかったです。
見た映画は
「キミといた場所」
という、ちょっと今の自分がみるのには痛かった映画でした。
泣いている彼女を見たら、近い将来こういうことが起きるのだろうって思うと
複雑な気持ちでした。
その後疲れから眠ってしまいました。
おきたら24時間以上も寝ていたことがわかりました。
明日からまた仕事です。
新たに始まるプロジェクト。
参加するけれど、終わるのは1年以上先。最後まで携われないのに私はいったい何がしたいんだろう。
なんだかそう考えるとちょっと鬱になりそうです。


私はここまでブログを書いたらパソコンを落とした。
眠ろうと思っていたが眠れなかった。
長時間寝たり、眠れなかったりを繰り返している。
今までこんなことなんてなかったのに。
最近そう実感することが増えてきた。
死に向かうということはこういうことなのだろうか。
私は空を見上げた。
やけに星がきれいに見えた。


~仕事開始~

朝起きる。
頭は相変わらずくらくらしている。
朝軽く食事を食べる。
今日は次のプロジェクト開始前のキックオフミーティングがある。
今までは一人でプロジェクトをしてきていたから問題はなかったが、今回から君塚という男が部下として付くことが決まっている。
なんとなく噂は聞いている。
だが、一度も会ったことがなかった。
頓服を飲んで会社へ向かった。

ミッドタウンタワー。
会社としての格をつけるためこの場所に本社を移転させた。
初めて来た時はこの和をイメージしたビルにビックリした。
竹をイメージした柱。木目をイメージした壁面。
でも、どれもこれも無機質で表現されている作り物の世界。
どうも、私は宣告を受けてからものの見方が変わってきている。
どこか悲観的でどこかこの世界を遠くから見ている。
死を受け入れていないだけなのかも知れない。
だから、会社に来て、普通にミーティングに出ようとしている。
このミーティングに出るということはプロジェクトに参加すること。
プロジェクトは年単位だから私には最後を見届けることなど出来ない。
ある意味会社への背任行為かもしれない。
私は今まで結果を出すことに執着していたが、なんだか結果を見ることなく自分がリタイヤすることがわかっているとなんだか気楽だった。
おかしな話だが。

私は自分のデスクに座り、今回のクライアントの要望書を手に持って会議室へ向かった。
会議室につくとまだ、会議15分前なのに人がいた。
いたのは茶髪にパーマがかかった男性。
顔は端正な顔立ちでサラリーマンというよりは、アイドルか俳優なのではと思ってしまった。
それくらい雰囲気があった。
スーツも高いのだろう。腕にしている時計はブルガリだ。君塚は若いがかなりのやり手であるということも聞いている。
ただ、その風貌のためクライアント受けはよくない。

「お疲れ、君塚くんだよね。
 今回パートナーを組む結城です」

私はそう言って君塚の横に座った。どこの香水かわからないがすごくいい匂いがした。

「どうも、はじめまして。宜しくです」

そういいながら君塚は手を出してきた。
私は一瞬戸惑ってから握手をした。
君塚は握手が終わってから言って来た。

「すいませんっす。海外が長かったからつい握手とかしちゃうんすよね。
 あ、すまないついでなんですけれど、今日のキックオフミーティングについての話し
 なんか今しちゃっても大丈夫な感じですか?」

話し方を聞いていて大丈夫なのか不安になってきた。私はどこか異文化に触れている気分になってしまった。私が何も言わなかったのを肯定と捕らえたのか君塚は話し続けてきた。

「今回のクライアントの要望書見たんっすけれど、これって結城さんが2年前に手がけた
 管理システムが使えると思うんっすよね。ちょっとデータベースから引っ張ってきたん
 ですけれど、ここの部分をちょっと変えたらいけると思うんっすよ。
 そして、変える部分でいいのないかな~ってデータベース漁ってたら、ビンゴって感じ
 のがあったんっすよ。今あの六角ナブラがやっているやつのが使えるんじゃないかって
 思っているんっすよね」

六角ナブラ?
一瞬固まっていた。
いや、話し方はかなりおかしいが仕事は出来ている。いや、私自身も今回の要望書を見たときに過去のシステム流用を考えていた。
同じ視点を持っていることにビックリした。
だが、私の疑問。
六角ナブラが解らなかった。

「君塚の案はいいと思うよ。ちなみに、聞きたいことがあるんだけれど、六角ナブラって
 誰のことなんだ?」

私がそういったら、君塚は指をさしていた。
そう、会議室に人が入ってきた。
上司の霧島だ。

「あんな六角形のめがねなんてかなり珍しいじゃないですか。
 だからです。でも、六角ナブラっていったら気づかれるからナブラでお願いしますね」

小声で君塚は言って来た。
私はナブラの意味が解らなかった。

「なんでナブラなんだ?」

私は素朴な疑問を君塚にぶつけた。

「ナブラって記号だと∇ですよね。デルタが記号だとΔですよね。
 二つ足すと六芒星になるんっすよ。んでも、そんなのもったいないから一つにした
んっすよ。んで、上よりも下向いているほうがいいかな~って思ったんでナブラです」

小声で話しながらメモに図を描いてきた君塚は満面の笑顔だった。
どうやら君塚は霧島リーダーが好きじゃないようだ。
その思いは解らなくもないが、上司は選べない。だから受け止める以外ないのだ。
まだ、そう思うには君塚は若いのかもしれない。
思いながら私もまだ若いよな。
なんて苦笑いを心の中でしてしまった。
だが、私は以外と知識もあり、地道に調査もする君塚に興味がわいてきた。
思ったよりうまくやっていけるかも知れない。
私はそう思った。
会議が始まった。

会議は粛々と進められた。
方針はさっき君塚が言ったとおりとなった。
ただ、明日クライアントへ行って打合せをしていく。方針が変わることもあれば、まったく変わらないときもある。
ほとんどの企業がシステム導入なんかに慣れていない。
だから業務フローなんかも気にしたこともない。
だから、打合せを何回もする必要がある。
横を見ると、君塚がノートパソコンで会議の議事録を作っていた。

「それでは、これで。お疲れ様でした」

霧島リーダーがそう言って会議を終了させた。
霧島が近づいてきて、こう言った。

「検診結果がメールで来ていない。
 何事もなかったのならそれでいいがどうなんだ」

言ったことは全部覚えている。まるでマシンのようだ。
私は霧島をそう思っている。
私はいやなところに触れられたと思ったがこういった。

「大丈夫です」

そう、それ以上言うとウソが見抜かれそうだと思った。
だが、返事を聞く前に霧島は会議室から立ち去っていた。

「あれ、ないよな~」

君塚が背伸びをしながら話しかけてきた。
画面を見ると、すでに議事録を参加者にメールで送信済みなのがわかった。
私はその状態を見て少し驚いた。
風貌とミスマッチだからだ。
噂はこの容姿しか流れていない。損をしているな。
私はそう思った。
私は何も言わないとどうやら君塚は肯定と捉えるようだ。
更に話し続けてきた。

「明日、クライアント行くんっすよね。オレも連れて行ってくれますよね。
 今までの人はみんな連れて行ってくれなかったんですよ。
 なんか心配だってね。
 一体何を見てそういってるんっすかね」

大きなジェスチャーをしながら君塚は話してきた。
私は君塚の髪を見ていた。
君塚はその視線に気がついたのかこう言って来た。

「あ、この髪っすか。これ地毛なんすよね。
 おれ、クォーターなんっすよ。ほら、目とか色若干ちがうっしょ」

そう言って、君塚は顔を近づけてきた。
確かに良く見ると瞳の色が青というか灰色に近い色をしていた。
私はこう言った。

「ああ、地毛なのはわかった。後は話し方だろうな。ま、明日は連れて行くからそのつもりで用意をしておいてくれ」

そう言った後、君塚はかなり喜んでいた。

「ありがとうっす。もち、明日はちゃんとよそ行きの話し方でいきますから。
 ありがとっす。あ、それと簡単ですが、明日のプレゼン用資料パワポで作ってますから
 見てください。議事録と別に送ってますから」

君塚はそういいながらガッツポーズをしながら会議室から去っていった。
席に戻りメールを確認する。
いつもなら自分で資料を作っているところだ。
君塚から送られてきた資料を見る。びっくりした。完璧だったからだ。
誤字、脱字もない。資料も完結で的を得ている。しかも丁寧な日本語だった。
正直以外だった。あの話し方だからふざけた資料で来るかと思ったらどこに出しても恥ずかしくない一流の資料だった。
私は部下がいるのも悪くないかもと思った。
メールで
「問題ないです。明日15部刷って持参してください。
 それでは明日は現地で」
とだけ送って私は帰宅した。

不思議と今日は体調が良かった。
だが、かえってブログを見てすごく落ち込んだ。そうこんなコメントが着ていたからだ。

「結局、彼女とイイ感じなのを自慢したいだけか?
 うだうだ言ってないで早くしねや」

すごくへこんだ。
私はこんなイヤな思いをするためにブログをはじめたのだろうか。
気がついたらこういうブログを書いていた。

【タイトル 残り173日】

今日は久々の仕事でした。
なんか自分でも病気がウソなんじゃないかと思うくらい快調でした。
けれど、一つのコメントをもらってこのブログを続けようか悩んでしまいました。
更新をしなくなったらすみません。


私はこれだけを更新して眠りについた。
イヤな思いからかなかなか眠りにつけなかった。
疲れているはずなのに不思議だった。
1時
不意に携帯で綾にメールをしてしまった。

「もう、寝たよね?」

綾も仕事が楽なほうじゃない。
楽だったら毎日会っているだろう。いや、一ヶ月に1回なんかのペースで会うなんてことにならなかっただろう。
お互い疲れきっているから平日は会うのを辞めて、一人暮らしをしているから洗濯や家事もあるから会う回数も減っていった。
メールはしたり、しなかったり。
正直、この病気のことがなかったら結婚も考えていた。
そう、ちょうどこのプロジェクトが始まる前に、プロポーズをしようと思っていた。
そのために用意をしていたものもある。
私は部屋を眺めていた。
電気は消えている。横になっていれば眠っていなくても疲れは取れるからだ。
携帯が震える。綾からだ。

「どうしたの?」

私は綾になんてメールしていいかわからなかった。
今まで綾に弱音を吐くなんてことはしてこなかった。そんな負担をかけたくなかったからだ。
だから一瞬悩んでしまった。
気がついたらこんな返事になっていた。

「いや、なんとなくどうしているのかな~って思っただけ。
 ごめんね。おやすみ」

私はそう送った。
綾からの返事がすぐに来た。

「辛い時は辛いって言ってね。
 私だってゆっくんのおかげで強くなれたんだからね。
 頑張りすぎないでね。明日はまた違う一日なんだしね」

私は綾のメールで励まされた。

「ありがとう」

そう、メールをした。気がついたら涙が流れていた。
携帯を握り締めて、ようやく眠りにつけた。


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